ゆみの会指導者手引
立
場
----------ゆみの会2年目として
高校以前から弓を引いているの経験者も大学で初めて弓に触れた初心者も、新入生からは同じ「弓引きの先輩」に見える。新入生が入ってくれば、「できない」「知らない」「分からない」が通じる立場ではなくなってしまう。そこで、全員が同じ指導力を持っていなくても、一定程度(初心者が的前で、おおむね正しく安全に引けるまでに育てる程度)の指導はできるように準備しておきたい。
----------自分たちの流派
射法は古くから研究され、数々の時の名射手が方法論をまとめて流派とした。それぞれの流派は目指すところはほとんど同じだが、そのプロセスが異なる。
そうした流派のまとまりは大雑把にいうと「礼射形」と「武者系」の2つである。
礼射系は小笠原流に代表される流れで、礼法や美しさや弓具の扱いを追求し、射法の特徴には一足の足踏み・正面打起し・左右均等の伸びと自然の離れなどがある。
武射系は日置流や本多流に代表される流れで、中りや矢の威力を追求し、射法の特徴には二足の足踏み・斜面打起し・角見の押しと捻り切りなどがある。(ただし本多流は正面打起し。)
戦後になり、(全)日本弓道連盟は日本の弓道の統一指針を示すものとして「弓道教本」を作った。教本の射法はおおむね礼射系である。ゆみの会の射法はこれに則っている。
指 導
----------指導の心得 「射術」と「楽しさ」を学ばせる
[理解・体現・反復→自動化]
技の原理と方法を頭で理解し、それを実際に体で再現し、一度できた技を反復することで、脳に運動のプログラムができて自動化される。自動化により意識に余裕ができ、新しい課題に取り組むことができる。これの学習のループをよく覚えておきたい。
学習者が伸び悩んでいるとき、学習ループのどこでつまづいているかを見極めることが指導のポイントとなる。
[与える情報]
学習者が理解するためには、指導者は適切な情報を適切な形で与えなければならない。以下の4点に沿うよう努力したい。
・正しい (誤った情報は理解できないか、理解しても体現できない。)
・簡潔 (初心者の理解力を超えた量・質の情報は理解されない。)
・丁寧 (雑な説明では理解に苦しむ。)
・優しい (一方的・圧力的な指導は受け入れがたい。)
[数寄器用]
「数寄(好き)で器用で稽古をすると弓の上達は早い」と昔から多くの流派で言われている。これは何も弓に限ったことではない。
弓道が好きでなければ練習をしないし、練習させたとしても上達は見込めない。難しいことではあるが、弓道に興味を持たせるよう心がけたい。
[指導者の修練]
学習者は指導者を見て学ぶ。指導の説得力を生み出すのは、指導者の実力と知識と人格である。いずれも日頃の努力によって磨かかなければならない。
また指導者の能力は何分の一も学習者に反映されるものではない。師範は弟子の遙かに上の段位であり、先生が生徒より遙かに知識を持っていることを考えれば、指導者は学習者の遙か上を目指して修練していかなければならない。
[初心者の立場]
初心者は弱い立場、低い技量、少ない知識にある。指導者が気づかぬ内に一方的な指導をしたり、非常に疲れる姿勢で動作を止めたりするのは珍しいことではない。指導者が当たり前に思いできている事柄が、初心者には通じないことなどしばしばある。初心者の立場に立って指導するようにする。
[全習法と分習法]
全習法は全体的な課題を反復するもので、全体の流れを把握するのには良く、学習者の興味を引く。
一方、分習法は部分的な技術を個々に練習するもので、それらをまとめて全体の流れに生かす方法である。個々の技術習得には効率的だが、技術単位が小さく単純なため、内容が単調になりがちで学習者の興味が薄れがちである。
全習法と分習法をバランス良く組み合わせて指導することが望ましい。
[一斉指導と少数指導]
一斉指導は同内容のものを同時に指導できて効率的である反面、学習者個々の条件(上達度・能力差特性)に沿った指導ができない。
少数指導の特徴はこの逆である。学習者を集中的に指導できるため、遅れを取り戻しやすい。
指導の効率化と進度の遅い新入生の底上げのために、一斉指導と少数指導をバランス良く組み合わせることが望ましい。
2. 方 法
[指導者グループ]
2年生以上を2グループに分け、前半と後半で指導と練習を入れ替わる。
ただし積極的に指導をするようにする。
[指導の手順]
@ 何も説明せずやらせる。
A 説明し、やってみせる。
B 要点を言いながら、修正しながら、何度もやらせる。
[道具]
・弓は基本的に初心者用の弱い弓(〜10キロ)を使う。
・矢は基本的に買った自分のものを使うが、購入前に必要となった時には貸す。
・カケは必ず自分のものを使う。忘れないように。
----------スケジュール
[スケジュール]
このスケジュールは週1.5回ペースで練習に来る人を想定している。新入生の練習量・上達度に応じて適当に調整する。ただし、遅くとも合宿までには全ての新入生が的前に上がれるように努力する。
進度に差が出てきたら、遅い進度の新入生のモチベーションを保つとともに、効率よく道具・設備が使用できるようにする。
4月上旬 導入 徒手 (超近的ははじめの1回だけ)
中旬 | ゆみの会入会
下旬 | ・安全管理
5月上旬 | 素引き(素手) ・練習の流れ
中旬 | ↓ ・道具
下旬 | 素引き(カケ) カケ購入 ・道着の着方・畳み方
6月上旬 ↓ | などは順次説明する。
中旬 | ゴム弓
下旬 | 巻藁
7月上旬 | | テスト期間
中旬 | | テスト期間
下旬 | | 的前 テスト期間 矢購入
8月上旬 | | |
中旬 | | |
下旬 | | |
9月上旬 | | |
中旬 ↓ ↓ ↓ 合宿
[段階を進める際の注意]
ひとつ先の段階に進むときは、目標が達成されているか数人(高校からの経験者を含む)でチェックする。中途半端な状態で次の段階に進むと、課題が山積して上達できない。特に手の内・取懸・離れが未熟なまま進むと危険になる。そのため焦らずひとつひとつを会得していくようにする。
段階が進んでも前段階の練習を並行して行う。これにより反復練習による技の定着、練習内容の分散による施設の効率的利用が見込まれる。
----------段階指導 徒手・素引き(素手)・素引き(カケ)・ゴム弓・巻藁・的前
1. 超 近 的
弓道への導入である。
[方法]
@ 素手で弓と矢を持ち、的から5mのところから射る。
[ねらい]
・ 弓を引くこと、矢を飛ばすことを楽しむ。
・ 何も教えられていない状態と、教えられ練習した状態を比べ、後に上達を感じる。
[目標]
・ 弓矢にふれあう。
[注意]
・ 十分に安全を確保すること。
2. 徒 手
何も持たずに行う練習を徒手練習という。
[方法]
@ 縦線と横線(十文字)を分習する。
A 八節の各節を言いながら運行する。
B 矢を持って会の形を覚える。
[ねらい]
・ 縦線と横線を覚える。
・ 動作の順番・速度・形を覚える。
[目標]
・ 縦線が作れる。
・ 横線が作れる。
・ 八節がおおむね正しく運行できる。
[注意]
・ 単調であまり面白みが無いので、飽きさせないように。
・ 運動に適した服装で行うこと。
・ 手の内・取懸はまだ教えなくて良い。
3. 素 引 き ( 素 手 )
[方法]
○ 弓手に弓を持ち、素手または布を持った馬手で弦を引く練習をする。
@ はじめは弦を少し引く程度にする。
A 慣れたら引く長さを増していく。
B 八節で行う。
[ねらい]
・ 手の内の必要性と原理を説明し、分習する。
・ 弓手の肘の張りを覚え、弓手を完成させる。
[目標]
・ 親指と中指が離れず、小指根が逃げない。
・ 弓手肘が伸びきる。
・ 弓手肩がおおむね逃げない。
・ 縦線がおおむね崩れない。
[注意]
・ 馬手の形はまだ教えなくて良い。
・ 素手で弦を引くと馬手が痛くなるので、軍手かタオルなどを使う。
・ 矢を番えていない状態で弦を離させない。
・ 巻藁以降で手の内が不完全のまま弦を離すと顔や手首を払い、離れの恐れから多くの問題(握る取懸・もたれ・体の逃げ・引き不足)が出てくるので、十分に手の内を習熟させる。
4. 素 引 き ( カ ケ )
[方法]
@ ゆがけの付け方を説明する。
A ゆがけを付け、形を分習する。
B 弦をとって前腕で捻り、少し引き、手先を解いて離す。
C 次第に引く長さを増す。ただし弦は離さない。
D 八節で行う。
[ねらい]
・ 弓手と馬手で横線を完成させる。
[目標]
・ 弦を保持できる。
・ 取懸の形が最後まで崩れない。
・ 馬手前腕の張った形がおおむね正しい。
・ 馬手肘の位置が正しい。
・ 馬手肩がおおむね崩れない。
・ 縦線がおおむね崩れない。
・ 八節がおおむね正しく運行できる。
5. ゴ ム 弓
[方法]
@ 素手でゴム弓を持ち、八節を運行する。
A 会で5秒程度伸び、ゴムを離す。
[ねらい]
・ 離れの感覚を覚える。
・ ゴム(矢の代わり)があるときの会の形を覚える。
[目標]
・ 恐れずスムースに離れることができる。
・ ゴムがあると体を割り込みづらいことを知る。
[注意]
・ 頬付けをするとゴムで顔を打つ場合は、顔から少し離して離す。
・ 取懸の形は適当で良い。
6. 巻 藁
[方法]
@ 巻藁前で弓に巻藁矢を番え、肩入れから離す。
A 八節を運行し、頬付け・胸弦をつけ、会まで引ききって離す。
B おおむね形が整ったら、巻藁に目印を付けてつけを覚える。
[ねらい]
・ 実際の離れを覚える。
・ 縦線・横線の伸びを強くする。
・ 手の内・取懸が正しく働く。
[目標]
・ 全体の形がおおむね正しい。
・ 離れがスムースに出る。
・ 矢を落とさない。矢口が開かない。
・ 弦で顔を払わない。
・ 矢がおおむね一定の所に刺さる。
[注意]
・ 巻藁からは殺傷能力を持つ。必ず指導者がつき、十分に安全を管理する。
・ 離れがスムースに出ないようであれば、ゴム弓に戻る。
・ 矢を落とすようであれば、素引きで取懸を分習する。
・ 顔を払うようであれば、素引きで手の内を分習する。
7. 的 前
[方法]
@ 指導者がつけをみて、意を決して離す。
A 初中りが出たら驚異乱舞して写真を撮る。
B 順次立射の体配を覚える。
[ねらい]
・ 弓道のスタート地点に立つ。
[目標]
・ 初中りを出す。
・ 的前に立っても今までの積み重ねが崩れない。
[注意]
・ 必ず指導者がつき、十分に安全を管理する。
・ 何本目で初中たりが出たかメモしておく。(個人的興味)
・ 中りが出てから崩れやすい。中った以降ほったらかさない。
射 術
----------射の必要要素 縦線・横線・手の内・取懸けの4つだけ
真っ直ぐな強い矢を射るために必要な基本的要素は4つしかない。すなわち「縦線」「横線」「手の内」「取懸け」である。いずれも複雑な技ではない、とてもシンプルな理念である。稽古ではこの4つを正確に行い、ダイナミックに矢を出すことに努力を尽くす。
縦線と横線を合わせて(縦横)十文字という。いずれも末端よりも根本が強くなければならない。末端が凝ったり詰まったりすると、根本にゆるみが生じる。基礎が頑丈でなくてはその上に建物が建つはずもない。
1. 縦 線
弓射において砲台の役割をなす。縦線は足、腰、脊柱、頸椎を軸とする垂直の線の伸び。足は大地に根を張り、上体は力まず天に向かって伸びる心持ちとする。身長が伸びてしまうほどに全身全霊を込めて伸びる。
以下の方法で作る縦線は、肚以下で上体の安定が保たれ、かつ上体は自由である。なお射法八節においては足踏みと胴造りで縦線を作り、以降残身まで縦線の働きを保つ。
[分習方法]
@ 足踏みをし、両腕を前から真上に張り伸ばす。
A さらに背伸びし、爪立つ。
B 尾てい骨から腰を前に送る。
C 両脚の力を抜かずに踵を降ろし、腕を降ろす。
以上のように「爪立ち」「腰入れ」によりできる縦線の感じをよく覚える。この練習に慣れたら、爪立たずにひかがみ(膝の裏)と腿の付根を張ることで縦線を作れるようにする。慣れない姿勢で大変に感じるかもしれないが、縦線は楽してできるものではない。
悪癖については射法八節の項で後述する。
2. 横 線
2.1.肩から上腕
弓射における砲身の役割をなす。横線は両肩、両腕、両肘、両手指からなる水平の線の伸びであり、左右の肩・肘・前腕で対称に等しい力で伸びる。先述のように根本である上腕、肩ほど緊張が強く、根本を強固にしながらも手先に自由を与える。腕が長くなるほどに全身全霊を込めて伸びる。
以下の方法で作る横線は、安定して力強く伸びることができる。弓は伸びる力、また伸筋にて押し開くものであり、屈筋にて腕を固めて力ずくで引くものではない。したがって、この横線は必須である。なお射法八節においては打起しから引分けで横線を作り、以降残身まで横線の働きを保つ。
[分習方法]
@
足踏みをし、両腕を水平に挙げる。
A 両側から手首を持ってもらう。
B 首を縮め、肩を張り上げる。
C 両肩を後ろ下に締めつつ腋の下から肘先に向かって強く張り伸ばす。
慣れたらひとりでやってみて、伸びの味を覚える。
2.2.肘
○ 弓手肘はよく張り伸ばして丸太のようにする。
○ 馬手肘は形の上では曲がっているが、張り伸ばす働きは弓手と同様。曲げられた板バネのようにする。
悪癖については射法八節の項で後述する。
3. 手 の 内
手の内は弓に対して働きかける弓手先の働き、また形のことである。離れで弓が矢に働きかける際、射手は手の内だけで弓に働きかけをするため、矢飛び(矢勢・収束性・矢色)に重大な影響を及ぼす。以下手の内の解説が長く続くが、結局は締めて押すことが全てである。
ちなみにまともに手の内を作っていたら手のひらが痛くなるのは当然である。大変なものであると認識されたい。ただし皮がむける前に押手ガケやテーピングなどでケアすることも大事である。
なお初心者においては、手の内の未熟によって弦で頬や手首を払うことがしばしば起こる。払いの恐怖心によって十分に体を弓に割り込めなくなり縦線横線が崩れる、取懸で握り素直な離れが出なくなる、弓の引きたくなくなるなど重大な問題となる。原理・要点を踏まえたうえで十分に習熟させることが望まれる。
[必要性]
和弓の弦を引いた状態から作為無く離すと
@ 弦は弓幹の中心へ向かって復元するので、矢が弓幹を擦り、前へ飛ぶ。
A 弦道(復元軌道)上にある顔・手首を払う。
B 短く振動周期の小さい下鉾の方が早く復元するので、矢は上へ飛ぶ。
C 弦は復元平面上で振動するので、握りが手の中で暴れ、矢所が散る。
@Aを解決するためには「弓幹を外側に回すモーメント(捻り)」が必要である。
BCを解決するためには「上鉾を押し下鉾を引く働き(上押し)」が必要である。
手の内側のみでこの2つの働きをなすのが手の内である。
[原理]
捻りを作り出すのは「小指根の支点(外竹左角)と拇指根の押し(内竹右角)によるてこ」と「手の内の皮のよれ」であり、上押しを作り出すのは「小指根の支点(握り下部)と拇指根の押し(握り上部)によるてこ」である。
[分習方法]
※素手で行う
@ 親指と小指の先端をくっつけ、できるだけ遠くに持っていく。(締め1)
A 小指・薬指・中指の3指の爪先を揃える。(爪揃い)
B 親指根より矢1本の隙間を空けて3指をつける。
C 親指−小指と3指−天紋筋の手幅を小さくするように締める。(締め2・3)
D 親指を根本から反らす。
※弓を持って行う
@ 天紋筋を外竹左角にあてる。
A 親指根と小指根をできるだけ近づけ、その間で弓を挟む。
B 虎口の皮を下に巻き込む。(親指−小指の締めに有利となる)
C 小指から順に爪揃い、親指を反らせ、手の内の形を整える。
D 弦を引くにしたがって3つの締め(1点に収束するように締めると良い)、手の内を皮を巻き込ませ、角見で内竹の右角を押す。
この練習でおおむね形が崩れないようになったら肩入れまで引いて練習する。
上段左:矢が前へ飛ぶ
上段中央:弦道
上段右:手の内のてこで解決
中段左:矢が上へ飛ぶ
中段中央:弓が振動する
中段右:手の内のてこで解決
下段:角見の押しと締め
※実際の行射
@ 弓構えにて、形を整える。
A 打起しにて、弦を垂直に保つように手首が曲がる。
B 大三にて、手の内の状態はほぼ完成形となる。ただし弓に対して手首は垂直。手の内の皮は以降滑らせない。
C 引分けにて、増大する弓力にしたがって手の内をますます締め、角見で押す。
D 会にて、全身全霊で一点に締め、全身全霊で角見で押す。
E 残身まで手の内を締め切り、押し切る。
×握り込み<初>
→弓に手前に回転するモーメントを与え逆効果。弦が返らないために離れの瞬間ゆるめて返すことがある。残身で手首が折れるため矢所が散る。3指先は握るのではなく側木を垂直に押す。
×親指が負け中指から離れる <初>
→角見の押しが弱く手の内の働きは弱い。
×親指根の折れ <初>
→角見の押しが弱く手の内の働きは弱い。矢羽で親指球の皮を破ることがある。先天的な骨格の問題であることもある。
×小指根(天紋筋下端)が弓から逃げる <初>
→支点が弱く手の内の働きは弱い。剛弱を立てる。
×過度の上押し形
→いわゆる「総まくりの手の内」。小指根が逃げ、手の内の働きは弱い。ただし弓は返りやすい。上押しは形のことではなく働きのことであることを理解する。
×下・ベタ押し <初>
→角見の押しが弱く、小指根の接触が弱いので手の内の働きは弱い。
×手首の控えすぎ <初>
→弓力を手首で受けることになり、十分押せない。したがって手の内の働きが弱い。手首が力むので横線に支障を来す。
×手首の入れすぎ <初>
→弓力を手首で受けることになり、十分押せない。したがって手の内の働きが弱い。手首が力むので横線に支障を来す。手首を弦で払うリスクが高まる。
×会の直前で手の内が滑る
→大三までに適当に滑らせておく。会で100%のよれになれば良い。
4. 取 懸
取懸の役割は馬手先で弦と矢を保持することである。離れで弦がカケ帽子から別れる際に、取懸は矢に大きな影響を及ぼす。したがって弾けるように離れ、弦が軽く抜けるような取懸にしなければならない。以下取懸の解説が長く続くが、結局は形を整えて捻って力を抜くことが全てである。
なお初心者においては、弦が外れる不安から手先で握り横線が伸びない、矢を落とし行射にならない、矢口が開き危険であるなどの問題がしばしば起こり成長をストップさせる。まず十分に習熟させるようにすべきである。
[形の分習方法] ※素手で行う
@ 薬指・小指は軽く握っておく。
A 中指と人差指を揃えて第一関節(根本)から伸ばす。
B 第二・三関節(根本より先)を鉤のように曲げる。
C 第二・三関節の間を帽子の先にのせる。
D 親指を根本から反らせるようにする。
カケをつけるとき、この形で紐を巻く。新しく控えの硬いカケだと手首のあたりに相当の隙間が空くが、それで構わない。
×カケ紐をきつく巻く
→手首の自由が奪われ、曲がることができなくなる。打起しでは矢が上を向き、会では肘先をアーチに張れない。
×第一関節が折れる
→弦を保持するために手先に力が入る。よって根本である馬手全体がゆるむ。また上腕屈筋が働く。
×指先でつまむ
→弦を保持するために手先に力が入る。よって根本である馬手全体がゆるむ。
×中指・人差し指で親指を握る
→離れることが困難になり、もたれになりやすい。離そうとすると手先をゆるめなければならず、馬手全体のゆるみを誘う。人差指は中指に添える。
[実際の方法]
@ 弓構えにて、カケ帽子の弦道に弦をかける。
A 中指・人差指を帽子にのせ、形を十分に整える。
B 帽子から矢1本分離れたところに取懸の位置を定める。
C 馬手前腕全体を手前に捻る。(これにより弦と矢が支えられる。)
D 手先の力を抜き、前腕の捻りで弦と矢を支え、おさえた中指の内側を馬手肘で引く。
E 会にて、前腕の捻りをそのままに手先の力をますます抜いていく。
F 離れが出る
×形が変わる
→矢を落としやすい。正しい形を始めに整えておく。
×縫い目の段差に弦をかける <初>
→行射中に縫い目の段差から弦が外れるので危険。
×中指だけでおさえる
→手首を外に折る屈筋が働き、肘が前に出るため引き込めない。
×薬指・小指が開く <初>
→残りの3指が力む。軽い離れが望めない。
×残身で薬指・小指が開く <初>
→馬手全体がゆるむ。薬指・小指でペンを握らせる。
×薬指・小指をきつく握る
→上腕屈筋が働く。
×手首が外・上に折れる <初>
→いわゆる「手首に力が入っている」状態。矢を支えられず落としやすい。さらに引き尺で損をする。中指のみで親指を押さえると外に折れやすい。取懸の形を正すことで直す。本人は力を入れている自覚が無いことが多い。
×手首が下に折れる
→いわゆる「手繰り」。手首で力を受けるため力む。大三以降肘から先を脱力して紐のようにする。また手の甲にペンを差し、腕にペンをつけるようにする。
(補足) 物 見
物見は的に向かって顔を向ける動作、またその状態である。
[物見を定める]
つむじを糸で吊られる心持ちで、的に額を向ける。その際目線は矢に沿わせる。体勢が崩れない程度にできるだけ頭を回す。首が落ちるぐらい回す。
[物見]
首筋(胸鎖乳突筋)を張る。目は的を注視する。弓を引くにしたがって崩れやすいが、崩さないようにする。
×物見が足りない
→矢が顔に当たり十分に引き込めない。顔を払うリスクが高い。
×物見が照る
→同じ口割りの高さまで引いても筈の高さは上がり、矢は下へ向く。視線に無理が生じる。
×物見が伏す
→同じ口割りの高さまで引いても筈の高さは下がり、矢は上へ向く。視線に無理が生じる。
×物見が懸かる
→いわゆる「迎えに行く」物見。早く頬に矢が付き引き込めない。あまり現れない。
×物見が退く <初>
→いわゆる「逃げる」物見。頬に矢が付かない。
×目をつむる
→ひとときも的から目を離してはならない。離れに恐れを持っている者に多い。 <初>
[物見を返す]
物見を定めるときと同様に、つむじを吊られながら目線を矢に沿わせて物見を戻す。
----------八節図解
以下の図で各節の形(点線)と力(矢印)をおおまかに表している。詳細は八節詳述を参照。
なお全体にわたって矢の線が、胴造り以降で縦線の伸びが、また手の内と取懸が省略されているので注意。



----------八節詳述 射法八節は4つの要素を完成させるためのプロセス
先に述べた「縦線」「横線」「手の内」「取懸け」を完成させ、矢を射出すために踏むプロセスが「射法八節」である。
射法八節は「足踏み」「胴造り」「弓構え」「打起し」「引分け」「会」「離れ」「残身」の8区分からなる。しかし区分されてはいるものの、射の運行にあたってはそれぞれが形の上で、また力の上で連続するものであり、断絶してはならない。一射は一本の竹のようなもので、これに8つの節があるようなものである。
八節の各段階は相互に関連しているので、ある段階で問題が生じたら前の段階にさかのぼって原因を探すことがしばしば近道となる。
1. 足 踏 み
足を踏み開く動作。射の基礎を作る。
[動作]
@ 左足を的に向かって踏み出し、60°にして踏みしめる。
A 右足を左足に寄せ、爪先を合わせる。上体が崩れないよう。
B 右足を弧を描くように矢束の幅に踏み開き、60°にして踏みしめる。(一足)
×上体が崩れる <初>
→崩さない。
[形]
・ 爪先間の幅は矢束とする。(矢が無い場合は身長の半分)(矢束の準)
・ 足の角度は60°(〜70°)とする(扇の準)
・ 爪先を結ぶ直線上に的があるものとする(一間中墨の準)
×踏み幅が広い
→腿内側が過度に緊張し、上体を支えられないため縦線が崩れる。
×踏み幅が狭い <初>
→腿の付根が緊張しづらく、左右の力に弱い。重心が高くなるため不安定。
×足の角度が広い
→足裏で踏む面積が小さく、前後の力に弱い。
×足の角度が狭い
→腿内側が過度に緊張し、上体を支えられないため縦線が崩れる。
×爪先の線が的の前を向く <初>
→矢を的に向けるには腰か脊柱か横線をよじらなくてはならないため、縦線が崩れる。ただし後に向く肩線を修正する方便になる。
×爪先の線が的の後を向く <初>
→矢を的に向けるには腰か脊柱か横線をよじらなくてはならないため、縦線が崩れる。ただし前に向く肩線を修正する方便になる。
2. 胴 造 り
足踏みの上に上体を据えて縦線を作る動作。ただし胴造りの働きはこれ以降残身まで続けられる。行射の最中重心の位置はおおむね中央前よりに置かれるが、打起し・引分けをするにしたがい前後し、最も安定で体全面で力を発揮しやすい位置に移動する。ただし踵が浮くほどの前重心は禁物である。
[動作]
@ 縦線を作る。
A 肩を楽に降ろす。
[形]
・ ひかがみと腿の付根が張られ、腰が入る。
・ 重心は足親指付根と土踏まずのあたりに落とす。
・ 足裏を結ぶ線と腰骨の線と横線が一枚に重なる。(つまり3直線が平行かつ1平面上に乗る。)
(三重十文字)
×反る胴
→腰から上が背面に反るもの。弓を引くにしたがい体が逃げて起こる。
×屈む胴
→腰から上が前面に反るもの。弓を引くにしたがい体で迎えに行って起こる。
×懸かる胴
→腰から上が的方向に傾くもの。弓を引くにしたがい弓手を体もろとも押すことで起こる。縦線を強くし、馬手を強くする。
×退く胴 <初>
→腰から上が的方向から退くもの。弓を引くにしたがい馬手を体もろとも引くことで起こる。縦線を強くし、弓手を強くする。
×腰が引け背が反る <初>
→いわゆる「鳩胸出尻」。胸に力が詰まり縦線が崩れ、肩が上がって横線が崩れる。屈む胴に分類されるが、反るように言うと射手は背を反らせるばかりである。脊椎は腿の付根よりも柔軟であるために背は反りやすいが、腿の付根を張り、腰から体を入れること。
×腰が前後に向く・上下に傾く
→縦線が崩れている。縦線の分習で正しい位置を理解する。
3. 弓 構 え
「取懸」「手の内」「物見」を定め、射の活動に移るための準備をする。
[動作]
@ 矢を番える。
A 馬手で弦を取り、取懸の形を整える
B 弓手で握りを持ち、手の内の形を整える。
C 本弭を左膝頭に置く。
D 懐を軽く広げ、腋に風を通すようにする。
E 気持ちを落ち着ける。
F 物見を定める。
[形]
・ 弓を持たない場合、上肢は弓を持った時と同じ角度にする。
・ 懐の形は円より少し長い長円となる。(円相)
×肘が伸びる
→打起しが過度に高くなる。
×肘が潰れる
→肩の自由が小さくなるため打起しが低くなる。無理に高くすると肩が上がり横線が崩れる。
×本弭が左膝に乗らない
→弓の重さを全て膝に預けるのではなく、弓手で支持する。
×上肢が力む
→打起しで肩が上がり横線が崩れる。
×縦線が崩れる
→崩さない。
3.1.矢番い
弦の中仕掛に筈を押し込み、矢を番える。矢番いの位置は矢所に影響するため、常に一定にしなければならない。
[形]
・ 走り羽(筈の溝と同じ向きの羽)が上を向くように番える。
・ 筈の高さは、弓の籐頭から弦に下ろした垂線の足より筈1つ分上。
×低い
→矢先が上がり、矢は上に飛ぶ。矢は弓や手を擦るため、矢色が付く。親指球の皮がむける。
×高い
→矢先が下がり、矢は下へ飛ぶ。過度でなければ矢色がつきにくい。
4. 打 起 し
弓矢を持った両拳を挙げる。打起しから残身までの両拳・肘・は、肩を含むおよそ45°の平面(引分け平面)上にある。
[動作]
@ 肩を沈ませながら、馬手先導で最小限の力で拳を挙げる。
A 腕の円は次第に伸びる。
B 肩が崩れないところで打起しを止める。
×速すぎる
→肩を崩しやすい。打起し前後で使われる筋が連続しない。
×遅すぎる
→腕が疲れてしまう。
[形]
・ 肩と拳を結ぶ線が45°弱となる。
・ 弓は常に体と平行に、弦は垂直に、矢は水平(またはやや下向き)となる。
×高すぎる <初>
→打起し中に円を伸ばし過ぎている。大三が高く近くなる。
×低すぎる
→打起し中に円を潰し過ぎている。大三が低く遠くなる。
×肩が上がる
→横線が崩れる。引分け以降弓力は増大するばかりで肩を降ろすチャンスは無くなる。早い段階から肩を降ろしておく。上がった肩を降ろすのも良くなく、肩の緊張が解かれるため、打起しで使う筋を引分けに活かせない。<初>
×低すぎる <初>
→弓構えが正しかった場合、打起し中に肘が落ちている。大三で肘が落ちる。
×踵が浮く
→打起しでは重心が前に移動するが、踵は浮かせてはいけない。
×縦線が崩れる <初>
→崩さない。
×弓が傾く。 <初>
→傾けないよう手首で調整する。
5. 引 分 け
打起した弓を左右均等に引き分け、横線を作る。便宜のため引分けを3段階に分けて説明する。
5.1.受渡し
弓構えから大三へ弓を押し開く。弓手先の移動に比べて馬手先の移動量はその半分である。
[動作]
@ 弓手主導で弓を押し始める。
A 馬手肘から先は捻る以外の力を抜き、紐のようにする。
B 馬手肘を上に張り上げ、増大する弓力を肘で受ける。
C 適当な位置(大三)で止める。
D この間に手の内と取懸は会のときのようになるよう、ほぼ完成させる。
×速すぎる <初>
→必要な筋動作を正確にできず、不要な力みが生じやすく、形が崩れやすい。
×遅すぎる
→腕が疲れてしまう。
×馬手主導で動く
→弓手が押しづらくなり、大三の形が定まりづらい。
×弓手を振り回す
→弓手は回すのではなく、押し開く心持ちにする。
×肩が上がる <初>
→横線が崩れる。肩を沈め、懐を広くする。
×肩線が後ろに向く <初>
→胴も巻き込んで弓手を転回している。横線が崩れる。
5.2.大三(押大目引三分一)
受渡しと引分けの間にある、力の転換点である。形のうえでは停止するが、力は止まらずに連続する。
[動作]
@ 両上腕の方向にY字に伸びる。
A 懐を広くし、大三を高く遠くとる。
[形]
・ 引き尺は矢尺の半分。
・ 矢は水平、またはわずかに下を向いており、肩線に平行。(水流れ)
・ 弓は垂直となる。
・ カケ紐が射手の正面にくる。
・ 馬手拳と額の間は1拳ないし2拳。
・ 馬手肘は打起しの時より上に張り上がっている。
×低い <初>
→重力を使って引けず、腕が力む。疲れてしまう。
×高すぎる <初>
→重力を多分に使って引分けるため、背筋・上腕下筋が使えず横線が弱くなる。また引分けの中心が左に寄り、左右均等にならない。
×近い <初>
→引分けで弓を引き寄せる余地がないので、背筋・上腕下筋が使えず横線が弱くなる。
×遠すぎる
→大三が低くなる。
×馬手肘が流されすぎ <初>
→引分けで馬手肘を多く引かなければならず、左右均等にならない。また馬手肩に大きな負担がかかり、傷害のリスクが高い。
×馬手肘から先が流れない <初>
→前腕と手先で力を受けてしまい、会で手繰りになる。なお大三での前腕の角度は会まで変わらない。
×馬手肘より先が流れすぎ <初>
→会で前腕を張れず、馬手が潰れる。懐を広くする。
×馬手肘が落ちる
→弓力を肘で受けられない。肩のストレッチなどをしておく。それでも馬手肘が張り上けられない場合は、多少馬手肩を上げてでも張り上げる。
×矢が上を向く <初>
→弓手の引分ける量が多くなり、左右均等にならない。弓手を突き上げているので、的へ押し込む。カケをきつく締めすぎている可能性がある。
×矢が下を向く
→馬手の引分ける量が多くなり、左右均等にならない。弓手を押し込み過ぎているので、高く張り伸ばす。
×矢が前を向く <初>
→馬手拳が近い。懐を広くする。
×矢が後を向く
→弓手を遠くに張り伸ばす。
×弓が照りすぎ <初>
→引分け途中で頬付けがつき、引分けづらくなる。カケをきつく締めすぎている可能性がある。
×弓が伏しすぎ
→手の内の小指根が弓から離れ、働きが弱くなる。引分け途中で胸弦がつき、引分けづらくなる。ただしわずかに伏すのは構わない。
×手の内が崩れる
→手の内の項参照。
×取懸が崩れる
→取懸の項参照。
5.3.引分け
大三から会へ、左右均等に最短距離で弓を引き分け、横線を作る。ここでいう左右均等とは、形のみならず力にもいえることである。途中いつ離しても中るような力の状態で引き分けることが、会での課題を減らすことになる。
[動作]
○ 肩根を締める。
○ 肚に支点をもつコンパスの足のように、左右均等に最短距離で引分ける。
○ 両肘をできるだけ遠くに持っていく
○ 弓の中に体を割り込ませる。
○ 肩・腕・気息を肚に降ろす。
×速すぎる <初>
→必要な筋動作を正確にできず、不要な力みが生じやすく、形が崩れやすい。
×遅すぎる
→腕が疲れてしまう。
×弓手が早い
→ねらいが先につき、馬手が納まらない。なかなか会に入れず、早気になりやすい。コンパスを意識して左右均等に引き分ける。
×馬手が早い <初>
→頬付け・胸弦が先につき、弓手が納まらない。上狙いの射手に多い。なかなか会に入れない。コンパスを意識して左右均等に引き分ける。
×肩が後に負ける <初>
→横線が崩れる。
×次第に手繰る
→引きが大きすぎる。会で手繰りになり、横線が崩れる。大三から肘から先を流し続ける。
×次第に馬手が潰れる <初>
→引きが小さすぎる。会で馬手が潰れ、前腕が張れない。引き足らずになり、離れも出づらい。馬手拳が耳のうしろを通るように引く。
×体に近づけるのが早い <初>
→会の近くで背筋・上腕下筋を使えないため横線が弱くなる。引分け途中で弦が頬に当たるため引きづらい。遠くを通して弓を引き寄せる。
×体になかなか近づかない <初>
→頬付け・胸弦が付かず、会に入れない。かぶるように引く。
×体で弓を迎えに行く <初>
→頬付けが付かない射手に多い。縦線が崩れる。
×体が弓から逃げる <初>
→離れを恐れる射手に多い。縦線が崩れる。
×胴が懸かる
→胴造りの項参照。
×胴が退く <初>
→胴造りの項参照。
×手の内が崩れる
→手の内の項参照。
×取懸が崩れる
→取懸の項参照。
6. 会
形のうえでは引分けの完了。矢束・つけ・頬付け・胸弦の4つが決まり、正しい形になっている(詰合い)。今までの諸動作は会に到達するために行ってきたもので、ここでは気迫をたたえ、間断なく天地左右に伸張するのである(伸合い)。
[動作]
○ 縦線を張り伸ばす。
○ 横線を的の星に向かって張り伸ばす。
○ 手の内を締める。
○ 角見で押し馬手肘で引く。
○ 取懸けは捻りつつ手先の力を解く。
気合いを肚にためる。
×早気
→付録参照。
×もたれ
→体力を失い、伸びのピークを逸する。伸び不足、弦で体を払ったことのある射手に多い。
[形]
・ 縦線が正しい。
・ 適当な矢束を引いている。
・ つけが正しい。
・ 頬付けが正しい。
・ 胸弦がついている。
・ 手の内が正しい。
・ 取懸が正しい。
・ 肩線が真直ぐ。
・ 肩が上がらず、首筋からなだらかである。
・ 肩胛骨が負けて浮いていない。(背中が凸凹していない。)
・ 弓手肘が伸びきっている。
・ 馬手肘先は肩関節を結ぶ直線上、またはわずかに後ろ下。
・ 馬手前腕は後ろから見て45〜60°(水平面からの角度)
・ 馬手肘がなめらかなアーチを描いている。
・ 馬手肘の角度は前から見て30°前後。
×いずれかが正しくない
→「縦線」「横線」「手の内」「取懸」「つけ」「頬付け」「胸弦」のうちの当該項参照。
×肘が前・上にいく
→引きが足りない。横線を強くする。
×肘が後にいく
→上腕下筋が働きづらい。体前面で壁に張り付くようにする。
×肘が下にいく
→馬手肩に負担がかかり、傷害のリスクが高まる。また頬付けを口割にするには馬手前腕を強く張らなければならず、左右均等にならない。横線を直す。
×肘が潰れる
→馬手肘の張りが足りない。肘より10cm手首寄りの点を裏的に張り合う。
×肘が開きすぎる
→馬手に負担がかかり、傷害のリスクが高まる。肘から先の力を抜く。他人に肘にペンをはさむんでもらい、落とさないようにする。
×矢が落ちる・矢口が開く
→取懸の手首の折れ、形の変化による可能性が高い。「取懸」の項参照。矢が落ちるのは中仕掛が細すぎる可能性がある。
×顔・弓手人差指が動く
→動かさない。
矢が落ちる
→取懸に問題有り。後述。
矢がしなる
→矢色がつく。取懸をただしくする。取懸の項参照。
6.1.つけ(ねらい)
和弓は銃やアーチェリー等と異なり、射手の目と的を結ぶ線が矢の線(弾道)と大きく離れている。そのため的の像と弓の像との位置関係でねらいを定める。ただしこのねらいは筈の位置が一定であることが前提となる。
[方法]
@ 両目で的を見る
A 2つ見える弓の像のうち、左の像(右目で見た方)を用いる。
[前後のねらい]
後ろから見たとき、矢が的の中心の上下につくのが理想である。このとき弓の像の左端と的の中心が重なる(半月のねらい)。
しかし手の内の未熟なうちは矢が前に飛ぶので、多少後ろをねらうことも許容される。(新月のねらい)
初心のうちから矢が後ろに飛ぶ場合は、会で左右のバランスが、離れで左右のタイミングが異なっていることが多い。
矢が極端に前に飛ぶときは矢口が開いている可能性がある。
なお初めて的前に立つ初心者はおおむね的3つほど後ろに飛ぶ。
[上下のねらい]
射手の前面から見たとき、矢が水平についていると横線の伸びが水平となり望ましい。 ただし14キロ以上を引き得ないと水平に射出しては的に届かないので、実際は弓力に応じて弓手を上げる。
矢が極端に上に飛ぶときは矢口が開いている可能性がある。
しかし、上狙いにするには横線を崩す(弓手を上げる)か縦線を崩す(骨盤を傾ける)ことになるので、とても不利である。また矢が山なりに飛ぶ10キロ内外以下の弓では、初速の差が上下の着点に大きく影響するので不利である。この点では12キロ以上の弓を引くことが望ましい。
×矢の先端でねらいをつける
→矢束は変わりやすいのでねらいの基準にはしない。
×片目をつむる
→しかと的を見据えなければならない。
6.2.頬付け
頬に矢をつけることを頬付けという。感覚の鋭敏な口元の皮膚で、引き込み・矢の高さ・引き尺を感じ取る。
[形]
・ 引き込みは、箆が軽く頬に触れる程度。
・ 矢の高さは、口割りからヒゲの高さ。
・ 引き尺は、本矧が口角からもみあげの間にあるように。
×つかない
→顔が逃げている、引き込み不足、手首が外に折れている、体型の問題。
×つくのが早い
→弓が照っている、顔が前に出ている。引きにくい。
×くい込むほどつく
→やりすぎ。顔を払うリスクが高まる。
×高い
→馬手肘が高い、手繰っている、手首が上に折れている。
×低い
→馬手肘が低い、馬手肘が潰れている。顔を払うリスクが高まる。
×顔で迎えに行く
→頬付けが付かない射手に多い。引き込めていない。
6.3.胸弦
弦が胸につくこと。弓の固定をする。
×つかない
→弓が安定しない。弓が照っている。
×つくのが早すぎる
→かぶるように引いている、弓が伏している。
7. 離 れ
会のエネルギーが気合いとともに発射される。意図的に離すのではなく、「離れる」ものである。
[動作]
なし(会で離れの準備ができている。矢が加速される約0.03秒間に意図的操作はできない。)
[形]
・弓手拳が引分け平面上で開かれる。
・馬手拳が矢の直線のレールに沿って飛ぶ。
×馬手先が前に出る
→馬手首が力んでいて硬い。取懸の項参照。
×切り下げ離れ
→両腕(または弓手のみ)が下に動く。横線の伸びの働きが弱い。また背筋を強く使うようにする。
×両手を後ろに振る
→横線の伸びの働きが弱い。板バネのような曲げの力でなく押しバネのような直線の力で弓を開くようにする。
×小離れ
→馬手が大きく開かない離れ。前腕の張りが弱い。
×二段離れ
→小離れの後、馬手を開いて残身をとるもの。前腕の張りが弱い。
×戻り・縮み
→肩・肘・手首・が離れの瞬間戻るもの。横線が弱い。
×引き離れ
→矢を引きながら離すもの。形の上で停止して横線を張り合うようにする。
×体が逃げる
→離れを恐れている初心者、体を払ったことのある射手に多い。手の内と取懸を分習し、離れの恐怖を除く。
8. 残 身 ・ 残 心 ( 残 伸 )
残身は離れた後の姿勢、残身は離れた後の心の働きのこと。いわばフォロースルーである。フォロースルーまで働きを続けなければ、離れで心身がゆるむ。離れで射が終わるのではなく、残身までが射である。また残身は会での伸びの方向や強さを知る手がかりになる。
[動作]
○ 縦線・横線は伸び続ける。
○ 会の緊張状態から平常状態まで心を緩める。
○ 矢所を注視し、その射を反省する。
[形]
・ 弓手は会より1拳後ろに、0.5拳下に移動する。
・ 馬手肘はピンポン玉1つ分程度後ろ下に移動する。
・ 馬手肘は9割方開く。
×残身で両腕が落ちる
→離れで気が抜けている。残身まで伸び続けなければならない。
×左右不均衡
→伸びの方向・強さが不正。
×両腕が上に納まる
→上腕下筋の働きが弱い。コンパスを意識して腕を下ろす。
----------矢所・トラブルからの推測 道具・つけ・技術の原因
1. 矢 所
1.1.矢所がいつも前
[道具]
・矢が曲がっている。
・弦枕が深い。
[つけ]
・ねらいが前についている。
[技術]
・手の内の働きが弱い。
・弓手が馬手に比べて弱い。
・離れで両腕がもどる。
・離れで弓手が前にいく。
・離れで矢口が開く。
・足踏みが前を向いている。
・弓が伏している。
・大三で前をねらっている。
1.2.矢所がいつも後
[道具]
・弓が弱すぎる。
・矢が曲がっている。
・弦枕が深い。
[つけ]
・ねらいが後についている。
[技術]
・馬手が弓手に比べて弱い。
・離れで弓手を後に振る。
・離れで馬手がゆるむ。
・離れで矢口が開く。
・離れで頬付けが離れる。
・足踏みが後を向いている。
・弓が照っている。
・大三で後をねらっている。
1.3.矢所がいつも下
[道具]
・弓が弱すぎる。弓を弱くした。
・矢が曲がっている。
・弦枕が深い。
[つけ]
・ねらいが下についている。
・頬付けが高い。
・矢番い位置が高い。
[技術]
・離れで馬手がゆるむ。
・離れで頬付けが高くなる。
・離れで弓手を切り下げる。
・離れで矢口が開く。
・大三で下をねらっている。
1.4.矢所がいつも上
[道具]
・弓が強すぎる。弓を強くした。
・矢が曲がっている。
[つけ]
・ねらいが上についている。
・頬付けが低い。
・矢番い位置が低い。
[技術]
・馬手で矢尺を引きながら離す。
・離れで頬付けが低くなる。
・離れで弓手を切り上げる。
・離れで矢口が開く。
・上押しが弱い。
・大三で上をねらっている。
1.5.矢所がバラバラ
[道具]
・矢に癖がある。
・矢が曲がっている。
・矢羽根が減っている。
[つけ]
・ねらいが一定でない。
・頬付けが低い。
・矢番い位置が一定でない。
[技術]
・手の内の働きが弱い。
・意識的に弓返しさせようとしている。
・横線が弱い。
・縦線が弱い。
・離れで頬付けが上下左右に動く。
・離れで弓手を切り下げる。
・離れで馬手がゆるむ。
・離す時期が一定しない。
2. ト ラ ブ ル
2.1.弦で顔・髪を払う
[影響]
弦で顔を払うと痛いだけでなく、次のような悪影響を併発する。
×もたれ
離れを怖いものと体が認識し、頭では離れようと思っても体が離さない。もたれは会が長すぎる癖で、持ちすぎていると体力のピークを逃してしまう。
×ビク
会で妻手が一瞬矢筋にビクッと戻る現象。もたれの項で挙げた理由によって起こる。危険。
×送り離れ
いわゆる「もどり」。体の全面もしくは的方向に妻手が戻る離れ。弓手もそれに伴うことがある。矢飛びは悪く遅い。また矢は前に飛ぶ。
×矢飛びへの悪影響
何かに接触して弦が復元するのだから矢は無用な抵抗を受け、矢飛びは悪く遅い。
[原因]
・手の内の働きが弱い →弦が体の全面に飛んでいかない。
・物見が甘い →顔が弓の中に入るので弦に接触しやすい。自殺行為である。
・物見が伏している →上に同じ。髪を払いやすい。
・頬付が低い →顎の方が細いので弓の中に顔が入ってしまう。頬付けの限界ラインは口割りの高さ。
・引きが足りない →弦が外に出きるより前に頭があるので接触する。
・手の内の入れすぎ・控えすぎ→手の内がよく働かない。
2.2.弦で手首を払う
[原因]
・弓把が低い(弦が低い) →弦が手首により近い位置に来るので接触しやすい。
・手の内の働きが弱い →弦が体の全面に飛んでいかない。
・手首の入れすぎ →手首が体の全面に出るので接触しやすい。また手の内がよく働かない。
2.3.引分け・会で矢を落とす
[原因]
・取懸の形が変わる。
・取懸の手首が外・上に折れる。
・頬付けを強くつけすぎ。
名 称



参 考 文 献
・ 弓道教本 第1巻 / 全日本弓道連盟
・ 詳説弓道 / 小笠原清信・白石暁
・ 弓道読本 / 唐沢光太郎
・ 弓道指導の理論と実際 / 入江康平・稲垣源四郎・森俊男・佐藤明
・ 絵説弓道 / 稲垣源四郎
・ ゆみの会 合宿用教材 / ゆみの会OB
・ ゆみの会 新入生への指導教材 / ゆみの会(筑附OB)
・ 筑附 新入生指導要項 / 筑附弓道部指導担当
・ 東京大学弓道同好会 2002年度版 指導マニュアル / 東京大学弓道同好会指導部
・ 説明省力化プリント / 筑附弓道部指導担当
編 集 後 記
指導係になるからにはマニュアルを作ろうという、その決心が迷路の入り口でした。弓道書を読み、筑附やゆみの会の初心者を観察し、指導の糧になりそうなことは何でもとりあえずやってみました。そうするうちに、実際の道場での指導力が付いて、それと同時に指導についてとてもじゃないけど文章でまとめられないことが悟られてきました。なんてこった。文章で伝えきれない部分が多々あるので、疑問に思ったことは聞いて下さい。
また、書いてみるとあまりに分かりにくく読む気の失せる文章になってしまいました。さらに身体、心、道具、体配などなどまだ書き足りないのです。興味があったら聞いてみたり本を漁ってみると良いです。深遠なる弓道の世界があなたを待っています。
弓道で直面する問題に対して自ら考え、試し、乗り越えるプロセスこそが弓道の面白さだと思っています。このマニュアルは考えるチャンスを剥奪しているのかもしれない、長々と書いているうちにそんな罪悪感も浮かんできました。一足飛びの上達がそのリスクを上回ることを祈るばかりです。
ゆみの会指導者手引き 第1版
文責 会6回・指導係
筑附112回弓道部・指導係・現在OB
2005年3月10日